「偽装請負」という言葉をご存じでしょうか。
書類上、形式的には請負(委託)契約になっているにもかかわらず、実際は労働者派遣であるものを「偽装請負」と言います。
しかし、この説明だけではよく分かりませんよね。
実際分かりづらい制度なのですが、偽装請負は違法であるため、知らずにいると罪に問われてしまいます。
しかし、偽装請負か適法な請負かどうかは、一見しただけでは判断できないのが実情です。一つの判断基準として、「誰が仕事の指揮命令をしているか」によって、偽装請負かどうかを判断することができます。
この記事では「偽装請負」について順を追って説明していきます。
「偽装請負」が発生してしまう原因として最も多いのは、労働者派遣と業務委託の区別がついていない場合です。
ですので、まずは労働者派遣と業務委託の違いを知るところから始めましょう。
労働者派遣とは、「派遣会社」「派遣労働者」、仕事の依頼主である「派遣先企業」の3者によって成り立つ労働形態です。
派遣先企業と派遣会社が「労働者派遣契約」を結ぶことによって、派遣の仕事は成立しています。
派遣先企業から仕事を依頼された派遣会社は、派遣の仕事を探している登録者を派遣労働者として派遣先企業に紹介します。
※派遣労働者に対して業務上の指揮命令権をもつのは派遣先企業になります。
そのため、派遣労働者は派遣先企業の指示に従って仕事を行うことになります。
一方、派遣会社と派遣労働者は雇用契約を結んでいるため、派遣労働者にとっての雇用主は派遣会社になります。
派遣労働者の立場からみると、雇用主と勤め先が異なっているわけですが、この点こそが、労働者派遣という労働形態の大きな特徴になっています。
業務の繁閑にあわせて柔軟に人材の確保ができます。
短期派遣から長期派遣、また短時間勤務や週1~4日だけなど柔軟に対応できます。
そのため正社員の育児休業や介護休業期間だけに代替としての利用することが可能です。
派遣会社にはさまざまな経験・スキルをもつスタッフが多数登録しており、その中から即戦力となる人材を、迅速に確保することが可能です。
自社で採用活動を行うと、莫大な工数やコストが発生してしまいますが、派遣の場合には必要ありません。
応募対応や選考などの、採用にかかる工数を削減することができ、さらに求人広告の出稿などのコストも不要になります。
派遣スタッフの給与計算や支払いは派遣元の管理となります。
また社会保険の加入手続きも派遣元が対応するため、人事部門の労務管理負荷を大幅に軽減することができます。
「請負」は、企業が業務を「業務委託(アウトソーシング)」する際の契約形態の一つです。
業務委託とは、「自社では対応しきれない業務を切り出して、業務の一部を外部へ委託するサービス」をいいます。
しかしながら、実は業務委託という契約自体は存在していないのです。
業務委託とは、民法上で「請負契約」「委任/準委任契約」の2つを総称する言葉なのです。
ですので「業務委託」というのは日常業務のなかで用いられる一般的な実務用語で、実際は「請負契約」か「委任・準委任契約」のどちらかを区別して使う必要があります。
請負契約は「報酬は成果に対して支払われるため、業務の過程には発生しない」という点が特徴です。依頼した業務が完成することを目的とし、その成果に責任が生じる契約となっています。
たとえば、ソフトウェアの開発で請負契約を締結した場合、完成したソフトウェアの納品に対し支払いが発生します。
動画編集やライティングといった作業の契約を締結した場合にも、完成した動画や記事の納品に対して支払いが発生するわけです。
法律行為を委託する契約を委任契約といいます。
税理士や弁護士に業務を委任する場合などに、主に締結されています。
また事実行為(事務処理)を委託する契約を準委任契約といいます。
研究開発・市場調査・講師など、法律行為にあたらない業務はすべて準委任契約の対象となります。
請負契約との違いは、成果に関わらず業務過程に対して報酬が発生するという点です。
それは委任・準委任契約が、業務の遂行(業務自体を行う行為)を目的としているためです。
「請負契約」、「委任・準委任契約」の共通点は、「発注企業は業務遂行者への指揮命令権を持ちあわせていない」という点です。
ここが最も重要なポイントです。
まず請負契約のメリットを、委託側の企業目線で考えてみます。
次に受託側の目線で考えてみます。
請負契約は「依頼した業務が完成することを目的とし、その成果に責任が生じる契約」であるため、完成までの工程については基本的に自由です。
勤務時間に縛られることなく、業務に集中することができます。
短時間で完成するほど時間当たりの報酬が上がることになります。
最後に委任契約のメリットですが、請負契約とは違って受託側は依頼された仕事について完成品を求められるものではありません。
一定の業務を行い、その業務を行った時間や工数に対して対価が支払われるというものです。
何かしらの完成品を納品することを考えずに済むため、専門分野に特化した業務に専念することができます。
また「これは契約内容に含まれない」と判断する業務の場合には、依頼を断ることができるのもメリットです。
ここまで派遣と請負、それぞれの契約形態の特徴を見てきました。
たとえば同じ職場内に、派遣契約の方と請負の方がいて、両者同じ仕事をしていたとします。
派遣契約の場合、前述したとおり「派遣労働者に対して業務上の指揮命令権をもつのは派遣先企業」となっているため、直接指示を出しても問題ありません。
しかし請負の場合は「発注企業は業務遂行者への指揮命令権を持ちあわせていない」のです。
よって同じ職場にいるからといって、派遣の方同様に直接指示を出してしまうと、それは違法になってしまうわけです。
たとえ同じ職場で働いていても、その人物がどういった契約内容のもとで働いているのか、ここをしっかりと確認しないと「偽装請負」となってしまうため注意が必要です。
東京労働局によると、偽装請負の代表的なパターンは以下のようなものがあげられます。
請負と言いながら、発注者が業務の細かい指示を労働者に出したり、出退勤・勤務時間の管理を行ったりしています。
偽装請負によく見られるパターンです。
現場には形式的に責任者を置いていますが、その責任者は、発注者の指示を個々の労働者に伝えるだけで、発注者が指示をしているのと実態は同じです。
単純な業務に多いパターンです。
業者Aが業者Bに仕事を発注し、Bは別の業者Cに請けた仕事をそのまま出します。
Cに雇用されている労働者がAの現場に行って、AやBの指示によって仕事をします。
一体誰に雇われているのかよく分からないというパターンです。
実態として、業者Aから業者Bで働くように労働者を斡旋します。
ところが、Bはその労働者と労働契約は結ばず、個人事業主として請負契約を結び業務の指示、命令をして働かせるというパターンです。
次に偽装請負が起こってしまう理由について解説します。
②が発生する理由としては以下が考えられます。
制約を逃れるために契約上は請負や業務委託契約を締結し、実際は自社の管理下で業務を行わせることで偽装請負が起こるものです。
偽装請負なのか適法な契約なのかの判断は、一目で判断できるものではありません。
実際に結ばれている契約内容、現場でどのような運用がされているのか、これらを総合的にみて判断することになります。
具体的な判断をするにあたって、職業安定法施行規則4条1項本文は、「請負人が次の4つの要件を全て満たさなければ違法な労働者供給である」としています。
従って一つでも満たさなければ偽装請負となります。
4つの要件を満たしていたとしても、適法な請負契約の体裁が整っていたとしても、法規制を免れようという偽装請負目的の場合、つまり、法規制をすり抜けるためにした契約であれば、違法な労働者供給として処罰すると規定しています(同条2項)。
このように、契約の内容や現場での運用実態だけでなく、「なぜそのような契約をしたのか」という契約目的まで審査されますので、偽装請負の取り締まりはかなり厳しいと言えるでしょう。
先の条文だけでは分かりづらい部分もあるため、かみ砕いて説明していきます。
請負契約は前述したとおり、請負人が仕事の完成に責任を負う点にあります。
対して偽装請負は、仕事の完成ではなく労働者を派遣するためになされるものです。
請負人が仕事の完成に責任を負っているか、財政面と法律面から判断しなくてはなりません。
作業に従事する労働者を指揮監督するのは、請負人であって注文者ではありません。
ここで注意が必要なのは、複数の労働者の中に管理者が含まれる場合です。
これらは請負人が指揮監督するとは認められません。
通常の請負契約において、現場で働く労働者は請負人に雇用されるのが原則になっています。
雇用していれば、法を遵守している限りは問題になることはありません。
しかし偽装請負の場合、労働者の雇用主が誰なのかが曖昧になるケースが多いのが実情です。
請負人が社会保険の加入手続きを取らなかったり等、使用者としての義務を果たさずに派遣してしまうケースも多く見られます。
これらを確認することが重要です。
この要件は建築会社が家を建てる場面を想像すると分かりやすくなります。
家を建てるための重機や道具類などは、誰が用意するものでしょう。
通常は建築会社が自前で用意するものです。
逆に派遣労働者や従業員は、会社の用意した器材を用いるのが基本です。こちらも契約の実態を判断する要素となるのです。
ここでも再度確認しますが、請負契約は仕事の完成に責任を持つものです。
建物を完成させるためには、当然専門的な技術や経験が必要になりますよね。
単純な肉体労働だけでは、仕事の完成そのものに責任を負うことは不可能なのです。
請け負った建築会社が、下請けや孫請けとして、個人事業主の左官職人等を頼む分には問題ありません。
職人さんならば自分の段取りや技術を駆使して仕上げることができるからです。
一方で、建築に関する知識のないアルバイトのような人は、現場の指示者から細かに指示を受けなければ、仕事をこなすことができません。
このような人を雇用契約ではなく請負契約や業務委託契約により使用する場合は、請負といえず、偽装請負となってしまうのです。
偽装請負は、労働者派遣法、職業安定法に違反します。
さらに労働基準法、労働契約法、労働組合法など様々な法律にも違反するのが通常です。
偽装請負を行った注文者と請負人は、労働者派遣法59条2号の「許可を受けないで一般労働者派遣事業を行った者」に該当し「1年以下の懲役又は100万円以下の罰金」が科されます。
また、特定労働者の派遣にあたる場合、同法60条1号の「6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金」に処せられる可能性もあります。
職業安定法44条では「何人も、次条に規定する場合を除くほか、労働者供給事業を行い、又はその労働者供給事業を行う者から供給される労働者を自らの指揮命令の下に労働させてはならない。」と労働者供給事業の禁止について規定されています。
職業安定法44条の次条にあたる45条では「労働組合等が、厚生労働大臣の許可を受けた場合は、無料の労働者供給事業を行うことができる。」と規定されています。
偽装請負の場合、許可も得ておらず、さらに有償であるのが通常なため「44条の規定に違反した者」(職業安定法64条9号)に該当し、1年以下の懲役または100万円以下の罰金が科される可能性があります。
処罰は注文者と請負人に科されます。
罰則の対象者は会社に加え、違反行為を直接行った者、従業員に指示して行わせた会社の代表者、管理職などに広く及びます。
また、共同受注契約を偽装した偽装請負の場合、偽装請負の当事者ではない共同受注会社までも処罰される可能性があります。
労働基準法第6条には「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない。」と規定があり、中間搾取を禁止しています。
請負を装った労働者供給や労働者派遣があった場合、請負人による中間搾取となる場合があります。
さらに注文者も搾取幇助の疑いで同条違反となる可能性があります。
労働基準法6条違反の場合、1年以下の懲役又は50万円以下の罰金が科されます(同法118条)。
偽装請負が発覚するケースとして多いのが、労働災害が発生した時です。
業務上の事故や怪我によるものです。
なぜなら、事故が発生したときに保障が受けられずにトラブルとなるからです。
偽装請負の請負人が、本来雇用契約を結ばなければいけない労働者との間に下請契約を結び、個人事業主として注文者の下で働かせた結果、本来労働者であれば適用されるべき労災保険が適用されないためです。
このような場合、偽装請負の注文者と請負人は、本来は労働者である下請人に対し損害賠償をしなければならない場合があります。
会社は下請人への支払に加え、ニュース等で取り上げられることにより社会的な不利益を受けるリスクがあります。
偽装請負で労働者を守るための法律の規制を免れようとした結果、使用者としての責任を取らされたうえに、社会的な制裁で大きなダメージを負うことになります。
労働者側は訴訟手続きが必要になるなど、時間も労力も費用も必要になってしまいます。
偽装請負が疑われる場合には、問題が起こる前にしかるべきところへ相談することが重要になります。
ここまで、偽装請負について解説してきました。
人手不足が深刻化する現在、今後も自社で採用する以外での人材確保が多くなることが予想されます。
意図的な偽装請負はもちろんのこと、うっかり偽装請負状態になってしまわないように注意しましょう。
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